映えない

人生が映えない人間は写真も映えない

飲み会黙り込みおじさん

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大人数の飲み会が苦手だ。大人数というのは、店で飲む際に複数のテーブルに分かれるぐらいの人数。

厳密には「複数のテーブルに分かれなければいけないぐらいの人数で、なおかつ中途半端な関係性の人たちとの飲み会」ということになる。例えば「会社の飲み会」である。

いざ乾杯して酒が入り始めると、みんなそれなりにテンションが上がって思い思いの会話をし始める。1つのグループの中でメインに話す(いわゆるMC的な)人がいて、その人に誰かが気の利いた返しをする。ときにはMCが替わって話は盛り上がっていく。

このやり取りに自分が運良く乗れたときはいいのだが、自分はかなりの確率で乗れない。気心の知れた地元の友達と会ってるときは大丈夫なのだが、それほどコミュニケーションスキルが高くないし面白い話ができるわけでもないし人気者なわけでもないので、下手なことを言ってすべってもなんだし(実際に過去にすべってきたこともあったし)、結局「黙っていよう」ということになる。

黙っていると、だいたい次の展開は以下の2つのパターンに分岐する。
・誰かが気を使って話しかけてくれる
・誰も話しかけてこない

どっちにしてもしんどい。他人に気を使わせるのはよろしくないし、誰も話しかけてこないと「いったいなぜ俺はこの場にいるのか」と考え始める。もちろん「聞き役に徹する」という役割をまっとうするという策もあるのだが、小学生の頃から「人の話を聞いていない」と通知表に書かれていたように、僕は他人の話に集中することができないのだ。

というわけで僕には「誰かに話しかけてもらえると助かるかもしれないけど面白いことは言えない気がするので、誰も気を使わないでくれ。というわけで貝のように黙り続ける」という選択肢しか残されていない。

酒は進み、みんなのテンションも上がる。テンションが上がって話に熱中しているから「1人黙っているやつがいる」なんてことも気にならなくなる。僕は1人で黙って酒を飲む。酒にすごく弱いわけでもないのだが体質的に顔が真っ赤になるので、40過ぎのおっさんが充血した目と赤ら顔でバカみたいに黙っていることになる。周囲も(仮に気づいたとして)”なんだこのめんどくさい人は。放置放置”と考えるだろう。

かといってよそのテーブルのほかのグループに侵入しようとも思えない。ほかのグループではもうその場所の空気ができていて、そこに入っていくわけにはいかない。

性格的に「まあなんでもいいからとりあえず居場所を見つけよう」みたいな考え方ができない。銃とかナイフを突きつけられたり、秘孔を突かれて「どこかのグループに入らないとお前は死ぬ」とでも言われない限り、じっとしていることになる。全然会話に入っていけないグループで。

このゾーンに入ると、MC的な役割の人の話の中で「あっ、それはこういうことだと思う」ということがあっても割り込めない。話の腰を折りそうな気がするし「おっさんが急にしゃべりだした」みたいなことになる。間違ってもそれは「聞いてパパ!香織(仮名)が初めてしゃべった!」「クララが立った!」的な喜ばしい事象ではないのだ。

そんなことを考えながらじっとしていてももちろん楽しくない。楽しくないことは苦行。続けていても何も得られない苦行だ。というわけで僕は、飲み会開始1時間ぐらいで適当な理由を付けて帰る。あるいは何も言わずに店を出て、SNS的なもので「お先に帰ります!」(元気よく「!」をつけるのがミソ)と伝えて家路につく。

飲み会参加者からすると、特に面白いことを言ったり職場の花であったりする人間がいなくなったというわけでもない。40過ぎのおっさん1人消えたってなんら支障はない。むしろ、押し黙って陰気に酒を飲む男が消えたのだから好都合なぐらいだ。そして宴は続く。

週が明け、何事もなかったかのように僕はてきぱきと仕事をして、必要なコミュニケーションを取る。「仕事」というものを介せばコミュニケーションは容易。飲み会でも、いわゆる取引先的な人たちとの飲み会なら、「これは仕事なので」という大義名分をもってして人の話に入っていくこともできる。「職場での飲み会も仕事みたいなもんだろう」という言い分もまあ、わかるっちゃわかるんだけど。