映えない

人生が映えない人間は写真も映えない

野球と恋愛

早朝に目が覚めて、いろいろ考えて眠れなくなったので久々のはてなブログ更新。

 

最近、ある女性を紹介された。

飲み仲間の男性から「なんで彼女いないんですか?」と言われ「うーん、まあもう歳も歳だし」とかなんとかゴニョゴニョ言っていたのだが「いい子がいるんで紹介しますよ!」と、早速その男性と彼が紹介してくれるという女性と3人で飲むことになった(こういうふうに話をさっさっと進められる人ってすごいなと感心する。仕事もできる人なのだが、やっぱりこういうところにも有能さが出る気がする)。

 

実は「紹介」ってこれまでも経験はあるのだけど、あからさまに「私はこんな人に興味ない」という態度を取られたり(まあ自分も相手に興味を持てなかったのだけど)、合コンでは「草野球をやってるんです」と言ったら鼻で笑われたり、あまり良い記憶がない(まあ記憶ってネガティブなことのほうが残りがちではあるものの)。

 

でも今回会った女性は本当に魅力的な人だった。まず外見の雰囲気が良いということもあるけど、少なくとも前述したような女性たちのような嫌な態度は微塵もなく、とにかく感じの良い人なのだ。それでいて、どこかに陰のようなものというか、語弊があるかもしれないけど愛嬌のあるめんどくささみたいなものもほんのり感じて、そういった部分にも惹かれる。

 

件の男性はしきりに「2人は合うと思う」と言ってくれてありがたかったけど、自分は生来のひねくれ者というか自信を持たない人間なので「うーん、確かに似ているところはあるし自分の話にも笑ってくれるけど、それは単に彼女のコミュ力が高くて俺に合わせてくれているからじゃないかなあ」と内心では思ってしまう。ただ、紹介しますよ→実際に会うまでの流れがあまりにスムーズでスピーディーだったので、こんな有能(と言う表現でいいのかわからないが)な人の言う事なら正しいのかもしれない、とも考える。

 

そんなことを考えるうちにその場の飲みは1時間半ほどで終わったのだが、男性はLINEグループを作り、それを介して女性の方から個別で「今日は楽しかった」という旨のお礼が来たので自分もお礼を返した。

 

この段階では「ああ、本当に良い感じの人だった」という満足感があった。その満足感は「あんな人と話せただけでもありがたいな」というもので、自分に対しての「もうこれだけで満足しておいたほうがいいぞ」という警告も含むものだ。

 

「確かに彼女は楽しそうにしていたように見えたけど、お前は少し酔っていたから2割増しぐらいでポジティブに捉えているかもしれない。それにその男性との関係性もあるわけだから彼女だってお前に興味持てないというそぶりはできないはずだ。だいたいお前と彼女は年齢だって一回り離れているし、彼女は仕事でも有能で、お前はいつダメになるかもしれない中小企業でのらくら働いているだけの人間だ。つりあうと思うか?お前みたいなもんが」と、じめじめしたもう1人の自分が囁きかけてくる。

 

だから「もし彼女のほうから実際に改めて話したいと連絡が来たら会おう。俺から連絡を取るのはおこがましい」と思うようにした。…つもりだったが、ここでもう1人の“きれいなジャイアン”ならぬ“きれいな俺”が現れ、「いやいやいや、その思考パターンもうええから!単に傷つくのにビビってるだけやのに『身を引く自分』に酔ってるだけやから!もうそういうひねくれたナルシシズム要らんねん!何様のつもりで受け身になってんの!?いいと思ったんなら早速行動せえよ!」と吠える。

 

するとまた“じめじめ”が現れ、「ナルシシズムではない!彼女のためを思ってじっとしておくべきだ。まかり間違ってお前のような人間と付き合うことになれば彼女が不幸になるかもしれないぞ!」と叫ぶ。“きれい”が現れ「話が飛んでるから!付き合うとか付き合わないとか不幸にするしないとかそんな先のことはいいから今の自分の気持ちをもっと大切にすべきやろ」と反撃する。

 

すると“じめじめ”が「黙れ!いつだったかの恋愛の時にもお前は『こりゃもういけるで』と安易にGOサインを出したけど結局ダメでそこからこいつは5年ぐらい引きずったじゃねーか!5年だぞ!」と、死球を当てられた清原和博藪恵壹にすごんだときのような顔つきで指を5本出した。“きれい”は「それはそれ!今度は違うかもしれないし、今度もダメになるって根拠はない。そう思わん?」と問いかける。

 

僕は「次の打席なんかもうないと思ってたんだよなあ。もう球場の照明は消えたと思っていたんだけど」とひとりごちる。“じめじめ”が「そうだ、もうお前は戦力外通告を受けた男なんだ」とヒガシの声で釘を刺そうとする。“きれい”が「この場をセッティングしてくれた人に対して失礼だと思わんの!?球場の照明は消えてないし、ツーアウトでランナーもいないけど代打で送り出してくれたんやで?大記録残したわけでもないやつが打席に立つこと拒否するなんてどこまで傲慢!?いいからさっさとバット持ってベンチ出ろ!!!」と絶叫する。

 

結果、僕は打席に入ることにした。

 

自分からLINEで彼女をランチに誘った。返事はOKだった。初球を振って痛烈なファウルというところだろうか。ベンチの“きれい”が「ええぞええぞ振れてるぞー!」と声を出す。

 

キャッチャーの“じめじめ”が「また負け戦に手を出したな…2球目を打ち上げて罵声を浴びながらベンチに帰るお前が見えるよ」とささやき戦術かましてくる。「前は3人だったし酒も入っていたから盛り上がったがシラフで昼に会えばどうなるかなあ?」とニタニタ笑う。

 

凡退する自分が見える。「それ見たことか」と言わんばかりのため息。「これでよかったんだ」と自分に言い聞かせる準備。ある種の安堵。

 

でも今は次のボールを待つしかない。僕はバッターボックスから一度外れる。“じめじめ”のささやきが少し遠ざかる。ベンチでは紹介をしてくれた男性が監督のように腕を組んでこちらを見ている。僕は軽い素振りを2度してバッターボックスに入り直す。