映えない

人生が映えない人間は写真も映えない

石垣島旅行1日目・膝強打

8月18日から21日にかけて、生まれて初めての一人旅に行ってきた。

食事でも映画でもなんでも基本的に一人を苦にしない自分だが、実は旅らしい旅をしたことがなかった。というか、家族ともあんまり行ったことがない(ほとんど連れて行ってもらえなかった)。フジロックは旅行とはまた違うし。ホテルに一人で泊まることも、最近の大阪出張まで未経験だったし。

そんな自分が一人旅童貞を捨てる場所として選んだのは石垣島

どうしてかというと、それはもうただただきれいな海が見たかったから。テレビとか写真じゃない本物の美しい海をこの目で見たかったからなのだけど、週間予報では自分の滞在期間はすべて雨。正直、前日まで行くのをやめるか悩んだ。中止すればそれなりにキャンセル料も取られるけど、それでもいいやというぐらいげんなり。「天気のクソ悪い石垣島行ってもしょうがない!俺は蒼井そら…じゃなくて青い空と海が見たいんだから!」と泣き喚き、周囲の人たちを困惑させるていたらく。しかしキャンセルはそれはそれでめんどくさく、結局「石垣の天気予報はあてにならない」という説を信じて行くことに。

早朝に家を出たが、「びりっ」と切れ痔のような音がして(そんな音はしないと思うが)はっと見ると、この旅行のために買った安物ボストンバッグの端のところの縫い合わされた部分の糸が何本も切れていた。説明が下手で頭が悪いのが丸わかりだが、鍵の金具のところに引っかかってしまったのだ。バッグとしての機能に特に問題はないものの、幸先が良くないと思わされる一件である。

何はともあれ成田空港まで向かったわけだが、いくつかのトラブル(自分が悪いのだが)に見舞われる。

東京駅から京成バスに乗って成田に向かう予定が、バス乗り場が見つからず発車時刻に間に合わぬという事態に。東京駅でバスといえばJRの乗り場のイメージがあったのであんな風にわかりやすい場所にあるのかと思いきや全然そんなことはなく、結局今も京成バス乗り場の場所はわかっていない。これでバス代900円がパーに。

飛行機の搭乗時刻には余裕を持たせていたので、とりあえず電車で空港に向かう。そして飛行機童貞でもあった自分は、空港でもミスを犯しあたふたする。

チェックインはウェブで済ませていたので問題がなかったのだが、荷物検査で「リチウムイオンバッテリーは預けるのではなく手荷物として持ち込んでください」ということになっており、ボストンバッグの下の方に入れたカメラリュックを無理やり引っ張り出し、X-T2用のバッテリーをひねり出す。バニラエアのカラフルな制服を着たスタッフの女性も呆れ顔である。いや、顔見てないけど。呆れてたら恥ずかしいから。

なんとかバッテリーを出してジーンズのポケットに詰め込み、「10分ほどカウンターの近くで待ってください」と言われる。

10分が経過する。

何も起こらない。

近くで、自分と同じく待っていた大学生ぐらいの男子グループが「もう10分経ってね?」「このまま待ってればいいんだろ」「いや、おかしくね?」と騒いでいる。

旅慣れたクールで大人な男を装いつつ、内心はニキビ面の(注:勝手な想像です)彼らと同じ思いである。え、ここでどうすんの?ていうかどこから飛行機に乗るの?と不安な気持ちになる。すると、本当に旅慣れてそうな中年女性二人組がスタッフに何やら説明を受けている。納得したらしい彼女たちがどこかに向かって歩いていくので聞き耳を立てると「国内線ってなんだかわかりにくいわね」みたいなことを言っている。

彼女たちが話を聞いていた男子スタッフに「えーと、ここでもう10分待ったんですけど」と聞くと、「10分経って呼び出されなかったなら荷物に問題がなかったということなので、搭乗口に向かってください、あちらです」と「やれやれだぜ…」と言わんばかりの目つきと口調で言われる。ああそういうことかと思ったけど、このあたりの手順みたいなのがどこにも書かれてないので自分のような飛行機童貞にはつらい。

なんとか搭乗口に向かった自分だが、今度は搭乗券がないと入れないと言われる。そりゃそうだ。でも搭乗券って? 荷物検査のカウンターに戻り搭乗券って?と聞くも、自分に応対したスタッフがどこかに行っていて見つからない。焦る自分。飛行機に間に合わず、よもや童貞卒業を逃すか…と目の前が真っ暗になったが、ウェブチェックインしたときに印刷した紙に搭乗券が貼ってあったことを思い出した。ここでまたもスタッフに呆れられる。全くこのクソ忙しいときになんて人騒がせな。タフィーも呆れとったわ

ともあれ、改めて搭乗口に入る。前には、若い男女のグループがいる。みんなニキビ面だ(嘘です)。彼らも石垣への旅にわくわくしているようだ。オラもなんだかわくわくしてきたぞ。そして彼らは、用意されたカゴに自分の手荷物を入れていく。え、え、何これ?とまたもパニックになるも、彼らにならって財布や携帯、さっきひねり出したバッテリーなどをカゴに入れ、ベルトコンベアみたいになってる装置に乗せる。荷物は箱型の機械に吸い込まれていく。要はセンサーであろう。よからぬものが引っかからぬように。シャブとかバールとかバールのようなものとか。

手ぶらになった状態で、金属探知機?のようなものを通る。これは映画とかで見たことがあったから知ってたけど、ベルトコンベア(ベルトじゃなかったけど)に荷物を乗せるというのは知らなかった。あんな、自分が成人したときにもまだ受精卵ぐらいだった若者たちが知ってることを知らないなんて…!と愕然とする。生きていて恥ずかしい。逃げるは恥だが生きるも恥だ。全然意味がわからない。思いついたことを書いている。

無事手荷物検査が終わり、バスに乗って搭乗機へ向かう。飛行機で待っていたCAは女性も男性も皆さわやかな笑顔で迎えてくれた。あまりににこやかにこちらを見つめるので、人見知りな自分は目を合わせることができなかった。

どうでもいい話なのだが、CAというのは「化粧を濃くする」ことを義務付けられているのだろうか。みんな職務を完璧に遂行していたのでこんなことを書くのもあれだが、そんなに塗らなくても…という美人な人もかなり濃かった。今度別の航空会社の飛行機に乗ったらそのへん確かめてみよう。まったく嫌な客だ。

そんなわけで自分が座ったのは、ちょうど右翼が見える窓際の席。飛行機に乗るのは怖いのに眼下の光景は見たいのである。

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事前に調べていたので知ってはいたが、LCCの座席はお世辞にも広くはない。それに、どことなくチープな作りに見える。だから安いんだろうけど(オンシーズンだから安くないんだけど)、不安になる。しかし自分の左隣に乗客がいなかったぶん、少し膝をそちらに寄せたりすることができたのでフライト中それほどつらくは感じなかった。

空席をはさんだ僕の隣には20代半ばから後半ぐらいの女性が座っていた。一人かな、と思っていたら、通路を隔てた席に連れの男性が座っており、ドラマ「問題のあるレストラン」の高畑充希のように「ですよね〜」と心中でうなずいた。

シートベルト(これもまたチープなんだ、なんか)を締め、いざ発進、パイルダーオン。iPhone機内モードにして(バカみたいだが、機内モードってこういう時に使うのか!と思った。電波状態が悪くなった時にしか使ったことなかった)、Bluetoothも切る。自分の頭からのものを除いてあらゆる電波を出さないようにするためだが、Bluetoothもダメだとは知らなかった。おかげで、音楽を聴くかダウンロードしたNetflix動画を観るために持ち込んだAirPodsが使えない。こんなことなら有線のEarPods持ってくりゃよかった。ちなみに聴こうと思っていた音楽は、わざわざiTunes Storeで買った大滝詠一の『A LONG VACATION』と、細野晴臣の『トロピカル・ダンディー』『泰安洋行』である。いかにもエキゾチック・ジャパン、2億4000万の瞳である。石垣島、異国じゃないけど。そしてNetflixで観ようと思っていたのは『ベトナム戦争の記録』だ。これはとても面白いドキュメンタリーなのだが、はっきり言って石垣島行きの飛行機の中で観るようなものではない。ただただ不吉である。なのでまあ、観れなくても別によかったけど。

A LONG VACATION 30th Edition

A LONG VACATION 30th Edition

 

仕方ないので、Kindleにダウンロードしておいた平野啓一郎の『マチネの終わりに』を読んで時間をつぶすことにした。福山雅治石田ゆり子の共演で映画化されるので、二人の顔を思い浮かべながら読んでしまう。いわゆるラブストーリーなのだが、男のほうのセリフがどうしても福山雅治のボイスと口調になって脳内で再生される。いつ「小雪ぃ」と言い出すか不安になった。別にいいんだけど。

マチネの終わりに

マチネの終わりに

 

知らなかったので新鮮だったのが、飛行機が飛ぶ前に滑走路へ移動するため、結構な距離を走ること。客を乗せる場所から滑走路まで走る中、少し緊張しながら外をチラチラ見る。

滑走路に到着し、加速して飛行機は無事離陸。なんともいえない気分ですよ、と教えられていたが、たしかにそうかもしれない。見る見る地面が遠ざかっていくに連れ、恐怖と興奮の入り混ざった感覚に包まれる。ありえへん!なんでこんな鉄の塊が宙に浮くねん!と、いざ空を飛んでも思ってしまう。

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飛行機は見る見る上昇し、高度を保ち始めた。愛想のいいCAたちが機内販売を始める。『マチネの終わりに』をちょろちょろと読みつつ、眼下に広がる海や島を窓から見て写真を撮る。後ろに座った小学生男子が「富士山だ」と言うので、子供みたいに自分も遠くの富士山を夢中で見る。最初は「窓が小さいなあ」と思ったが、このぐらいがいいのかもしれない。あんまり窓が大きいとそれはそれで怖いはずだ。構造上あり得ない話だが、床がシースルーの飛行機なんか乗りたいとは思わないだろう。怖すぎる。

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石垣島近くに差し掛かると、とたんに雲が多くなる。右翼が真っ白な雲で見えなくなるぐらいに。そして、島が見える。海はブルーだが、天気が悪いのでそれほど美しくは見えない。

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着陸時になかなかの衝撃があったが、無事着いたことに胸をなでおろす。実は飛行機は落ちていて、これは自分が死んだことに気づいていない自分が見ている夢のようなものだったりしたらどうしよう、という妄想に駆られながら。

やはり石垣空港は雨だった。

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どういうルートなのかは知らないが、預けていた荷物がベルトコンベアで運ばれてくるとそこそこ濡れていて、自分はそこまで気にしないけど怒るやつとかもいるんじゃないかと思った。

朝から何も食べていなかったので、やはり雨か…とため息をつきつつ、空港のフードコートみたいな場所でソーキそばを食す。注文の列で、前にカップルがいる。空港はカップルか家族か同性のグループで満ちていた。独り者なんか自分ぐらいだ、といっても大げさではないぐらい、独り者はいない。観光地に一人で来る人間は本当に少ないのかもしれない。

ソーキそばを受け取ってテーブルにつくと、向かいに座っていた若い女性の2人組が席を立って去っていった。まるで不吉な何か、あるいは加齢臭を感じ取ったかのように。

食事の後、空港から離島ターミナル(市街地にある)へ向かうバスに乗り込む。このあたりから少し太陽の光が見え始める。運転手のおじさんはよく日焼けしたいかにも島人な風貌だが、でかいピアスをしていた。

離島ターミナルに到着。バスを降り、ホテルへ向かう。途中、道路に埋め込まれているプレートで完璧に滑り左膝を強打。コンバースのオールスターで歩いてたんだけど、それはもうすごい滑りようだった。声出た。というわけで、雨の石垣島市街地(の一部)を歩くときは気をつけた方がいいです。この日は痛みでずっと左足を引きずることになった。

ホテルに着き、チェックインして部屋へ。ベッセルホテル石垣島というところだったんだけど、値段相応だと思った。特に悪いところは見つからない。ここはリゾートホテルではないから、必要最低限のことだけをしてくれる。でもとりあえず清潔だしちゃんとタオルとかも毎日変えてくれる(当たり前か)。

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14時から20時はウェルカムドリンクとしてさんぴん茶とパインジュースが飲めるのだけど、フロントのそばにあるジュース供給機(とでも言えばいいのか)に気づかず、朝食を食べるためのスペースに勝手に入ってしまった。中でひっそりと食事をしていた従業員らしき人に注意されなかったのはなぜだろうか。

このタイミングで食事をする店を決めようと思い、とりあえず有名な「ひとし」に電話をするもつながらない。予約が殺到しているらしいのだ。本店にようやくつながったと思ったら、やはり予約いっぱいとのこと。もうひとつの店舗は20回ぐらいかけたがまったくつながらなかったので諦めた。

結局、初日は海の近くのイタリアンへ。2日目は某海鮮系居酒屋、3日目は石垣牛を食すために焼肉屋にした。幸いどの店も予約が取れた。本当はもっと前に予約しておくべきなのだが、前日まで行くのに迷っていたのでこういうことになったのである。

イタリアンは、eno1081さんのブログを参考にして決めた。なお今回の石垣島旅行計画に関しては、かなりeno1081さんのプランをパクっている参考にしている。ありがとうございます。

www.nekopajamas.net

前菜でカルパッチョを頼もうとするも、天候のために魚が獲れなかったということで断念。マグロの生ハムとスパークリングワイン、それから伊勢海老のパスタなどを頼んだ(この件で、Instagramを見た友人たちから「おしゃれなもん食いやがって」と後日ツッコまれる)。

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それにしてもひどい写真だ。見返してみて自分の下手さに愕然としている。レタッチでどうこうという問題ではない。撮影者の頭の中身を疑いたくなるレベルの下手さ。新橋のサラリーマンあたりが知ったような顔で「あの写真はいただけませんねえ」などとほざきそうなクオリティの低さである。

マグロの生ハムは想像以上にハムで、マグロと言わなければ誰もマグロだとは思わないだろう。あなたも、ガールフレンドや奥さんから「私、実はマグロよ」と教えてくれなければきっと彼女たちが演技をしていることに気づかないだろう。そういうものだ。

このレストランはおいしく、堅苦しすぎず、メニューの説明も簡潔にして要領を得ていて、居心地がよかった。これだけで、天候への不安もなんとなく消えた。単に酒が入り脳が浮かれていただけという説もあるが。

このタイミングで雨は完全にやんでいた。事前に調べていたバーに赴く。このバーがなかなか居心地がよく、結局3日連続で飲みに行くことになる。勧められた泡盛を水割りで飲み、ほろ酔いで暗い港のそばを通ってホテルに戻り、翌日からの晴天を期待しつつシャワーを浴びて寝た。細野晴臣の「HONEY MOON」が沁みる夜だった(翌日も翌々日もこれ聴いて夜の石垣を歩いた)。

トロピカルダンディー(紙ジャケット仕様)

トロピカルダンディー(紙ジャケット仕様)

 

(2日目に続く)